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ショパンの音楽を絵画にたとえるとどうなるだろう。画家の心をとらえた対象を即興的に描きとめたスケッチだろうか、淡い色彩をデリケートにほどこした水彩画だろうか。ローランサンのような抒情的な絵だろうか、モジリアニのような官能と憂愁をたたえた絵だろうか。このCDを聴いて私が思い浮かべたのは、実をいうとそれらのいずれでもなく、壮麗で威厳に満ちたな歴史画だった。美術館の壁一面を占領するドラマチックな大作である。力感あふれる構図、はっきりとした色彩のコントラスト、怒りや悲しみの感情をあらわにする登場人物…。画面にあらわれるものすべてがゆるぎない筆法で描き込まれている。
中村紘子のショパンも、そうした歴史画に似て、どっしりとした存在感をもっている。腰がふらつかない、安定のいい重厚なショパンである。ここでもう一度比喩を持ち出すことを許してもらうなら、町人のショパンではなく、武家のショパンである。落語のショパンではなく、講談のショパンである。だから、彼女の弾く「ノクターン第20番」からは、悩みを持つ者のやるせない気持ちではなく、静かに教えさとすような年長者の思いやりが聴こえてくるのである。「舟歌 嬰へ短調」からは、波に翻弄される小舟ではなく、水上を滑らかに進む大ぶりの船がイメージされるのである。そうした演奏の性格は、第2番と第3番のソナタにもひときわ雄渾(ゆうこん)な姿を与えている。(松本泰樹)