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1977年3月、大野豊は2年11か月勤めた出雲信用組合を退職し、テスト生として広島東洋カープに入団した。母子家庭で育ち、幼いころより母を楽させようと堅実な職業を選んだはずの男が、勇気と希望をもってプロの世界に挑んだのだ。だが、その希望は1軍での初登板でもろくも打ち砕かれた。もちろんファーム転落である。その夜、大野は「選手寮まで泣きながら歩いて帰った」という。
本書には、大野がいかにしてこのどん底からはい上がり、防御率のタイトルやペナントレース優勝などの功績を収めるまでに至ったかが、大野自身の言葉で記されている。現役時代ずっと続いた肩やひじの故障、数多くの失敗、地道な努力。決して派手な現役生活ではなく、つらい日々が続いたが、そのなかで彼は多くの師やライバルに出会い、成長していった。
彼は、転身して夢を実現させた男であり、また43歳まで現役を務め上げた中年の星であり、決して丈夫ではない体でプロ野球選手という過酷な仕事を成し遂げた人間である。彼の劇的な人生は、多くの人々に勇気と希望を与えるだろう。これから何かを始めようとしている人、年を重ねることに不安を感じている中高年、やりたいことがあるのに自分には無理だとあきらめてしまっている人に、ぜひおすすめしたい。(土井英司)