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他者としっかり向き合うことから逃避する人が増えているという。パソコンのチャットに精を出し、ケータイを手放せない若者たち。しかし本書は彼らを分析し、説教し、社会の矛盾を追求する、日曜朝の討論番組系退屈本では決してない。対話の難しさを知り尽くしたうえで、あえてすすめる著者の論はとても刺激的だ。善意さえあれば理解し合えるという欺瞞はこっぱみじんに。阪神大震災の時、いかに見当違いな救援物資が送られたかなどの例を挙げ、よい人の無神経さ、独善性を斬る。そして、「悪の対話」へといざなう。
著者は今までネガティブなものとされてきた言辞の数々の効用を説く。ののしることができない人へ、洗練された軽蔑の念をあらわすための「お世辞」。「悪口」は共有する相手との間に心を許しあったかのような感覚をもつことができる…。 しかし。魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)するこの世で生き抜く知恵を伝授するハウツー本、というだけでもない。
本書を貫く主張は「決して刹那的に、弛緩した自己を生きないでほしい」「真実を愛するなら虚偽をも知らなくてはいけない」といった、ちょっとしんどいが極めてまっとうなもの。帯のコピー「これが大人のレトリック 言って勝つ生き方」に惹かれて購入した向きも、それ以上の果実を手に入れることだろう。(高橋伴子)