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東京という街を舞台に、5人の作家の個性をあぶりだす形でまとめられた小説集、それが本書である。銀座は椎名誠「屋上の黄色いテント」、青山は林真理子「一年ののち」、下高井戸は藤野千夜「主婦と交番」、深川は松村友視「夢子」、新宿は盛田隆二「新宿の果実」。それぞれの描く街の風景と人物は、街の空気や彩りを生き生きと彷彿させ、読者の心を引き寄せる。
たとえば林真理子の作品は、しゃれたブティックが並び、センスのいい男女が行き交う青山という場所に、地方出身の年ごろの女エリコと、東京生まれのエリート商社マンを登場させる。エリコは男の心がつかめないまま1年の期限つきでつきあっている。男の恋人がアメリカから戻るまでという約束だった。恋を失いたくないエリコは、不安と卑屈さを抱いたまま男と関係を重ねる。けれども男は恋人という女性に実は相手にされず、その哀しみを癒すためにエリコとつきあっていた。事実が腑に落ちた瞬間、エリコは男への執着が薄れた自分に気づく。男女の心理の綾が、洗練された青山という街に浮かび上がる。
盛田隆二の作品は、猥雑な新宿にうごめく10代が鮮烈に描かれた。真夏の熱気がゆらめく下、2人の落ちこぼれ予備校生がほろ苦い人生体験を味わう青春グラフィティー。シンナーとドラッグ、フィリッピン少女の売春婦、素人相手にぼったくりする店の男、さまざまなアジア人がごっちゃに集まる無国籍的な歌舞伎町界隈、それが切ないまでに鮮烈だ。
本書はもともと、フランスの出版社による企画「街の小説」シリーズの一環。フランス人の目に映る東京はどのようなものか。フランス語版と日本語版の同時刊行である。(松平盟子)